地球上のすべての命と調和して

はじめに

私たちは、気候変動の加速化、海洋環境の悪化、生物多様性の崩壊が進行している時代に生きています。2019年4月にユネスコに提出されたIPBES（生物多様性と生態系サービスに関する政府間組織、気候変動に関する政府間組織であるIPCCの生物多様性版）の報告によると、自然体系がこれほどまでに劇的な弱体化を経験したことは歴史上ありません。これまでに確認されている800万種のうち、100万種が絶滅の危機に瀕しています。
遺伝的多様性の喪失を含むこのような生物多様性の喪失は、多くの農業システムの回復力を弱め、世界の食料安全保障を脅かす可能性があります。
このような背景の中で、ユネスコとルレ•エ•シャトー協会との間でパートナーシップが設立されました。同協会のコミットメントは、食、健康、環境の相互関係の重要性を明確に強調しています。
このパートナーシップは、教育、科学、文化の分野でユネスコが世界的に行っている努力の一環であり、国際機関と市民社会の間でより効果的な新しい連携を模索するものです。私たち全員に、進路を変える集団的な責任があり 3ます。互いに協力し合うことで、人間と環境とのバランスを回復することができ、誰もがその役割を果たすことが求められています。
解決策を模索する際、私たちはユネスコが指定した1000以上の自然世界遺産、生物圏保護区、そして世界ジオパークの見地と経験を活かすことができます。また、無形文化遺産リストを通じてユネスコが保存している伝統的な料理の知識や実践は、自然資源を尊重し健康的な持続可能な食の体系を開発する貴重なアイデアやインスピレーションの源ともなります。
ユネスコとルレ•エ•シャトー協会は声をひとつにし、食に対する視点と実践を変え、明日の世界をより良いものに築くよう呼びかけています。次につづくページは、その道を進むためのガイドとなるでしょう。

オードレ•アズレ
ユネスコ事務局長

ルレ・エ・シャトーは1954年、世界の選りすぐりのホテルとレストランの個人経営のオーナーが結集し、発足しました。その多くは家族経営であり、地域の 文化を共有することに深く献身し、善と美の探求に心から取り組んでいます。

加盟メンバーは、あらゆるコミュニティのあらゆる人とのふれあいや対話を絶やさず、自然がもたらす無限の豊かさや多様性と向き合い、食とおもてなしにおいて日々研鑽しています。
常に変わりゆく世の中において、この特異ともいえるルレ•エ•シャトーの徹 底したスタンスがメンバーひとりひとりの責任ある意識と行動につながって います。
2014年に、私たちは「料理とおもてなしで世の中に貢献する」というビジョンを発表しました。それ以来、私たちはこの目標に向けて尽力してきましたが、気候変動、驚くべき速さで進行する生物多様性の喪失、様々な社会的危機など、世界の課題はさらに山積みになりました。
この様な課題を前に、私たちはどう行動すればよいのか。人類と自然が新しい調和を見出し、それぞれの場所でより良い世界を目指して実質的に貢献するには、メンバー個人として、そして協会として、自らの責任をどう受け入れるべきなのか。大きな成果を目指す中、私たちの異なる個性を最大限に活かしながら、各自できることは何なのか。環境、社会、経済目標の実現において、私たちは、ルレ•エ•シャトーの施設で掲げる目標やビジョンをさらに厳しく追及することこそが成功への道である、と確信しています。
新しいホテルやレストランが、ネットワークから離れて単独でこのビジョンを達成することはできません。それを実現するには、ネットワークの中で共に取り組む必要があります。なぜなら、ルレ•エ•シャトーの施設ひとつひとつが、他のすべてにとっても有益である創造性、独創性、そして解決策の源であるからです。
これらのコミットメントは、おもてなしと料理の芸術を介して、善と美への情熱を共通の原動力とし、地球上の全ての命が調和し、互いに敬意を持ち、団結する、持続可能な世界の構築に貢献したいという深い願望を反映しています。
私たちは、これらの意図が具体的、かつ明確で測定可能な行動に転換されなければならないことを認識しています。ここに、３つの主要な使命を追求するために設計された１２のコミットメントで、行動指針を表明します。

世界のおもてなしと食の伝統文化を守る

• 世界各地の多様なおもてなしの豊かさを、それぞれのルレ•エ•シャトー施設の独自性と地域の特色を通じて促進します。地域の文化遺産、象徴的な地元の建築（最も伝統的なものから最も現代的なものまで）、装飾芸術、さらには風景や庭園デザインを守ります。
• 地域コミュニティ、生産者、サプライヤーと積極的に連携しながら、価値を共に創造し、彼らの活動の発展とその遺産の多様性の保護を支援します。
• シェフの創造性によって、地域の独自性や生物多様性、自然的および文化的環境、地域の歴史や、農業、漁業の伝統を表現する料理を提供します。
• 私たちのエコシステムにおけるすべてのステークホルダーと協力し、できる限り多くの人々が、環境、食、料理が私たちの健康に及ぼす重要な役割を理解し、評価できるように努め、良質の食品と特別な食事を共有する喜びを促進し、広めます。

生物多様性の保護と発展に貢献する

• 地方自治体、非政府組織、科学者および生物多様性の保全に取り組むすべての関係者と連携し、陸上および海洋生態系の再生と発展に貢献します。
• ルレ•エ•シャトーのシェフの影響力および食材調達の選択を活かし、再生可能な農業の発展、動物福祉を尊重する飼育条件の推進、持続可能な手法を用いた小規模漁業を支援することによって、地球の海洋の保全に貢献します
• 世界規模で、協会およびそのメンバー施設が、新しい管理手法を日常業務に導入することにより、自らの活動の脱炭素化を測定・推進し、2040年までに地球温暖化防止に貢献します。
• 水、エネルギー、廃棄物管理、プラスチック（特に使い捨てプラスチック）の排除、地域の旬の食材の活用において掲げた極めて意欲的な
  2040年環境目標を、ルレ•エ•シャトー全体およびメンバーとして実現します。

より人道的な世界に向け日々行動する

• 地元のコミュニティがその文化的および職人の遺産を守り、発展させる努力を支援します。必要に応じて教育を導入し、不平等の削減に向けて共に努力します。そして、希望する人には、おもてなしと食における職業において、卓越性を重んじる環境の中で、社会的に、そして経済的に成長する機会を提供します。
• 私たちの集団的なコミットメントを通じて、チームに対して真に意義ある役割と責任を保証し、各メンバーの違いを尊重しながら、充実した個人生活と家族生活を享受できるような模範的な労働条件と管理方法を提供します。
• 私たちのエコシステム全体と協力し、善と美への情熱と専門知識を次世代に伝えます。これらの宝を日々分かち合い、ステークホルダーに対し、私たちのコミットメントを促進します。
• それぞれの施設が、私たちのゲスト、チーム、そして周囲のコミュニティにとって、質の高い人間関係が最重視される、敬意と調和のある場所であることを確保します。

これらの深い信念に突き動かされ、ルレ・エ・シャトー協会および全てのメンバーは、地球上のすべての生命と調和し、敬意を持ち、団結した持続可能な世界の実現に向けて 積極的に貢献することを固く宣言します。